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東京高等裁判所 平成10年(ネ)2424号 判決 1999年3月31日

控訴人(原告) 朝銀埼玉信用組合

右代表者代表理事 A

右訴訟代理人弁護士 小室貴司

被控訴人(被告) 有限会社エムズ

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 太田耕造

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、三三七万〇三七八円を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件は、根抵当権者である控訴人が、目的物件の賃貸人である被控訴人に対し、物上代位権に基づく賃料債権の差押え後にされた被控訴人の賃料の受領は、控訴人に対抗できず、控訴人との関係では法律上の原因を欠く不当利得になるとして、右賃料の返還を求めた事案である。

一  前提となる事実

1  控訴人は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について、次の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を有している(乙イ二)。

設定登記 平成五年八月一二日

原因 同年七月一六日設定

極度額 八五〇〇万円(同年一二月二七日一億三〇〇〇万円に変更)

債権の範囲 信用組合取引、手形債権、小切手債権

債務者 株式会社三和工務店(以下「三和工務店」という。同年一二月二七日Cに変更)

根抵当権者 控訴人

2  本件建物については、次の所有権に関する登記が経由されている(乙イ二、弁論の全趣旨)。

(一) 平成五年八月一二日 Cの所有権保存登記

(二) 平成六年一〇月一八日 株式会社セントラルリース(後に株式会社セントラルクレジットと商号変更。原審訴え取下げ前被告)の同月一七日売買を原因とする所有権移転登記

(三) 平成九年四月二一日 (二)の登記の錯誤を原因とする抹消登記

なお、株式会社セントラルリース(以下「セントラルリース」という。)の(二)の登記は、C及び三和工務店のセントラルリースに対する三〇〇〇万円の借入金債務の譲渡担保としてされたものであり、セントラルリースは、平成九年三月、三和工務店に対する右債権を含む一切の債権を放棄しており、(二)の登記後も、本件建物の実質的な所有者はCであった(乙イ一、三ないし七、弁論の全趣旨)。

3  本件建物は、平成五年七月一六日ころに新築されたが、内装工事、上下水道及び電気工事が未了であった。

被控訴人は、平成六年三月一五日、C及び三和工務店から、本件建物の内装工事、上下水道及び電気工事を代金二九三〇万円で請け負い、平成八年二月ころ、これを完成させた。なお、Cは、三和工務店の代表取締役Dの妻である。

この間、C及び三和工務店は、被控訴人に対し、中間金の支払ができなかったため、平成七年九月三〇日、被控訴人がそれまでに立て替えた工事材料費等及び被控訴人に今後支払うべき工事費用合計二七三〇万円の支払方法として、本件建物完成後、被控訴人に本件建物の管理及び賃貸権限を与え、被控訴人が賃借人から支払を受ける賃料を右二七三〇万円の債務の弁済に充てることを承諾した(以上、甲八、乙イ二、ロ二、弁論の全趣旨)。

4  被控訴人は、有限会社山一ハウジング(以下「山一ハウジング」という。)を管理人として、Eら一〇名に対し、賃料翌月分を毎月末日までに支払うこと、一か月に満たない期間の賃料は日割り計算することとの約定で、次のとおり本件建物を賃貸した(甲九の1から22)。

室番 賃借人 賃貸借期間 賃料月額

一〇一 E 平成八年四月一三日から二年間 六万一〇〇〇円

一〇二 F 平成八年四月六日から二年間 六万一〇〇〇円

一〇三 G 平成八年四月六日から二年間 五万九〇〇〇円

一〇五 H 平成八年五月二五日から二年間 五万九〇〇〇円

一六〇 I 平成八年五月一日から二年間 六万一〇〇〇円

二〇一 J 平成八年四月一〇日から二年間 六万四〇〇〇円

二〇二 K 平成八年四月一〇日から二年間 六万四〇〇〇円

二〇三 L 平成八年四月二三日から二年間 六万二〇〇〇円

二〇五 M 平成八年五月一日から二年間 六万二〇〇〇円

二〇六 N 平成八年三月二三日から二年間 六万四〇〇〇円

5  控訴人は、平成九年二月二〇日現在、Cに対し、次の債権を有していた(甲一)。

(一) 平成五年一二月二七日付け金銭消費貸借契約に基づく貸金残元金 八二三七万八六四四円

(二) 同日付け金銭消費貸借契約に基づく貸金元金 二八〇〇万円

(三) (一)の元金(八二五〇万円)に対する平成六年六月八日から平成九年二月二〇日までの年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金 四〇七三万六二三九円

(四) (二)の元金に対する平成六年六月八日から平成九年二月二〇日までの年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金 一三八四万六〇〇〇円

6  控訴人は、Cが前項の借入金の支払をしないので、平成九年二月二六日、東京地方裁判所に対し、債務者をC、所有者をセントラルリース及び株式会社セントラルクレジット(以下「セントラルクレジット」という。)、第三債務者をEら一〇名、被担保債権及び請求債権を前項一ないし四の債権(ただし、一の債権額は八二五〇万円、三の債権額は四〇七九万六二五〇円)のうち極度額一億三〇〇〇万円の範囲として、本件根抵当権に基づく物上代位により、所有者が第三債務者に対して有する差押命令送達日以降に支払期の到来する賃料にして、右第三債務者それぞれにつき一五〇万円(合計一五〇〇万円)に満つるまでの各賃料債権の差押命令を申し立て(同裁判所平成九年(ナ)第一九〇号)、同裁判所は、同月二七日、右債権差押命令を発付し、同命令(以下「本件債権差押命令」という。)は、第三債務者Eら一〇名に対し、次の各日時に送達された(一部争いがない、甲二、一一ないし一九、二一)。

(一) E 平成九年三月四日

(二) F 同月一日

(三) G 同月三日

(四) H 同月二日

(五) I 遅くとも同月二一日(争いがない)

(六) J 同月二日

(七) K 同月一日

(八) L 同月二日

(九) M 同月二日

(一〇) N 同月二日

7  第三債務者Eら七名(G、I及びJを除く。)は、東京地方裁判所に対し、本件建物の賃貸人は、セントラルリース又はセントラルクレジットではなく、別人であるとして、差し押さえられた賃料を控訴人に支払う意思の有無を明らかにしない回答をした(甲三の1ないし9)。

8  第三債務者Eら一〇名は、平成九年二月末ころ、被控訴人の代理人である山一ハウジングに対し、同年三月分の各賃料及び共益費を支払い、山一ハウジングは、同月一三日、被控訴人に対し、これらの賃料等合計六三万七〇〇〇円から管理料等を控除した五六万七四〇九円を被控訴人の銀行口座に振り込んで引き渡した(甲二〇の1、2、乙ロ三)。

9  その後、第三債務者Eら七名は、次の各日時に本件建物から退去した(甲二〇の3)。

室番 賃借人 退去日

一〇一 E 平成九年三月三一日

一〇二 F 平成九年四月五日

一〇三 G 平成九年三月三一日

一〇五 H 平成九年五月三一日

一〇六 I 平成九年四月

二〇一 J 平成九年五月三一日

二〇三 L 平成一〇年四月初め

10  平成一〇年八月から現在に至るまで、本件建物のうち、一〇一号室及び二〇一号室は、被控訴人が従業員の社宅などとして使用し、二〇二号室はKが、二〇五号室はMが、二〇六号室はNがそれぞれ居宅として使用している(甲七、八、二〇の1)。

二 争点

1  本件建物の賃料は、控訴人が本件根抵当権によって把握していた交換価値の具体化したものといえるか。

(一) 被控訴人の主張

控訴人が本件根抵当権を取得した当時、本件建物は、上下水道、電気の設備がなく、内装工事もされていなかったから、到底第三者に賃貸して収益を挙げ得る建物ではなかった。被控訴人が右各工事を完成させたことにより、初めて第三者に賃貸して収益を挙げることができるようになったものである。

したがって、本件建物の賃料は、控訴人が本件根抵当権取得当時把握していた交換価値が具体化したものではなく、本件根抵当権の効力は及ばないものというべきであるから、控訴人は、右賃料に物上代位することはできない。

(二) 控訴人の主張

本件根抵当権は、被控訴人が右各工事を施したことによって価値が増加した本件建物全体にその効力が及び、その状態の本件建物の賃料に対して物上代位することができる。

2  控訴人が本件根抵当権に基づき被控訴人の賃料債権を差し押さえて物上代位権を行使することの可否

(一) 控訴人の主張

本件のように、被控訴人に対し本件建物の賃貸権限の設定がされた場合であっても、賃料債権の譲渡や賃貸人の地位の譲渡の場合と同様に、その賃料は、民法三七二条、三〇四条一項本文の「債務者が受くべき金銭」に該当し、物上代位が可能であると解される。

ところで、建物の賃貸権限の設定の場合と包括的賃料債権の譲渡の場合とでは、利益衡量上の差異はないから、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡された後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるとした最高裁平成一〇年一月三〇日第二小法廷判決の判旨に照らし、建物の賃貸権限が設定された後においても、その賃料債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるというべきである。

そして、物上代位権に基づく差押え後にされた賃貸人の賃料の受領は、抵当権者に対抗できず、抵当権者との関係では法律上の原因を欠くから、抵当権者は、賃貸人に対し、不当利得として右賃料の返還を求め得るものと解される。

(二) 被控訴人の主張

被控訴人は、本件建物の賃料債権の譲渡を受けたのではなく、賃貸する権限を付与されたものであり、しかも、右権限の付与は、本件建物を賃貸できるような状態にまで仕上げた工事費のためのものであるから、賃料債権の譲渡の場合とは異なる扱いがされてしかるべきである。

3  控訴人の物上代位権に基づく差押えの効力の範囲ないしは被控訴人の不当利得の存否

(一) 控訴人の主張

第三債務者に対する本件債権差押命令送達後、被控訴人が第三債務者から取得した賃料等は、次のとおりである。

(1) 一〇一号室のEについて

同人に対し本件債権差押命令が送達された日の翌日である平成九年三月五日から同人が退去した同月三一日までの賃料月額六万一〇〇〇円の日割計算による五万三一二九円

(2) 一〇二号室のFについて

同人に対し本件債権差押命令が送達された日の翌日である平成九年三月二日から同人が退去した同年四月五日までの賃料月額六万一〇〇〇円の日割計算による六万三一二三円

(3) 一〇三号室のGについて

同人に対し本件債権差押命令が送達された日の翌日である平成九年三月四日から同人が退去した同月二一日までの賃料月額五万九〇〇〇円の日割計算による三万四二五八円

(4) 一〇五号室のHについて

同人に対し本件債権差押命令が送達された日の翌日である平成九年三月三日から同人が退去した同年五月三一日までの賃料月額五万九〇〇〇円の日割計算による一七万三一九三円

(5) 二〇一号室のJについて

同人に対し本件債権差押命令が送達された日の翌日である平成九年三月三日から同人が退去した同年五月三一日までの賃料月額六万四〇〇〇円の日割計算による一八万七八七〇円

(6) 二〇二号室のKについて

同人に対し本件債権差押命令が送達された日の翌日である平成九年三月二日から同月三一日までの賃料月額六万四〇〇〇円の日割計算による六万一九三五円

(7) 二〇三号室のLについて

同人に対し本件債権差押命令が送達された日の翌日である平成九年三月三日から同年五月三一日までの賃料月額六万二〇〇〇円の日割計算による一八万二〇〇〇円

(8) 二〇五号室のMについて

同人に対し本件債権差押命令が送達された日の翌日である平成九年三月三日から同月三一日までの賃料月額六万二〇〇〇円の日割計算による五万八〇〇〇円

(9) 二〇六号室のNについて

同人に対し本件債権差押命令が送達された日の翌日である平成九年三月三日から同月三一日までの賃料月額六万四〇〇〇円の日割計算による五万九八七〇円

(10) 賃借人退去後の一〇一号室及び二〇一号室について

この外、一〇一号室及び二〇一号室については、それぞれE及びJの退去後現在まで、被控訴人の代表者であるB個人が使用しているので、被控訴人は、控訴人に対し、不法行為に基づく賃料相当の損害金又は不当利得返還金として、次の金員を支払う義務がある。

① 一〇一号室について、平成九年四月一日から平成一〇年一二月三一日まで一か月六万一〇〇〇円の割合による一二八万一〇〇〇円

② 二〇一号室について、平成九年六月一日から平成一〇年一二月三一日まで一か月六万四〇〇〇円の割合による一二一万六〇〇〇円

以上合計 二三七万〇三七八円

(二) 被控訴人の主張

(1) 本件債権差押命令が第三債務者に送達されたのは、いずれも平成九年三月一日以降であるところ、同年三月分の賃料は、同年二月末日までに、第三債務者から被控訴人の代理人である山一ハウジングに支払われていたものであるから、差押えの効力が及ぶのは同年四月一日以降の賃料にすぎないし、また、被控訴人は、同年四月分以降の賃料は受領していない。

(2) 一〇一号室及び二〇一号室については、被控訴人が有する留置権に基づく管理の一種として、被控訴人の従業員に無償で使用させているものであり、被控訴人には控訴人主張の賃料相当損害金等を支払う義務はない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

建物に対する抵当権の効力は、その建物に付加してこれと一体を成した物に及ぶところ(民法三七〇条本文)、被控訴人の前記工事によって本件建物に施された上下水道、電気設備及び内装は、いずれも本件建物に付加してこれと一体を成した物と認められるから、控訴人の有する根抵当権は、右工事によって価値が増加した本件建物全体にその効力が及び、控訴人は、その状態における本件建物の賃料に対して物上代位することができるというべきである。

二  争点2について

前掲最高裁平成一〇年一月三〇日第二小法廷判決及び同年二月一〇日第三小法廷判決は、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる旨を判示するが、その理由は、本件のように、抵当不動産の所有者から賃貸権限を付与された者(以下「賃貸権限者」という。)がその不動産を賃貸した後に、抵当権者がその賃料債権を差し押さえて物上代位権を行使する場合にも妥当するものと解するのが相当である。

すなわち、民法三七二条、三〇四条一項ただし書にいう「払渡又は引渡」には、当然には賃貸権限の付与に基づく賃貸を含むものとは解されないし、賃貸権限の付与に基づく賃貸がされたことから必然的に抵当権の効力がその賃料債権に及ばなくなるものと解すべき理由はない。

また、抵当不動産について賃貸権限の付与に基づく賃貸がされた後に抵当権者が物上代位権に基づきその賃料債権の差押えをした場合において、賃借人である第三債務者は、差押命令の送達を受ける前に賃貸権限者に弁済した債権についてはその消滅を抵当権者に対抗することができ、弁済をしていない債権についてはこれを供託すれば免責されるのであるから、抵当権者に賃貸権限者の賃貸後における物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益が害されることとはならない。

さらに、賃貸権限の付与に基づく賃貸が物上代位に優先すると解するならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に賃貸権限を付与することによって容易に物上代位権の行使を免れることができるが、このことは抵当権者の利益を不当に害するものというべきである。

したがって、民法三〇四条一項の「払渡又は引渡」には、賃貸権限の付与に基づく賃貸は含まれず、抵当権者は、抵当不動産について賃貸権限の付与に基づく賃貸がされた後においても、自らその賃料債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。

三  争点3について

1  以上認定説示したところによれば、本件建物の平成九年三月分の賃料については、本件債権差押命令送達前である同年二月末日に支払期が到来しているから、そもそも差押えの効力が及ばないものというべきであるし、また、賃借人である第三債務者Eら一〇名は、本件債権差押命令が送達される前である同年二月末ころ、賃貸権限者である被控訴人の代理人山一ハウジングに対し、既に同年三月分の賃料を支払済みであるから、その消滅を本件根抵当権者である控訴人に対抗することができるものといわなければならない。

そうすると、被控訴人の右賃料の受領をもって不当利得ということはできない。

2  前示のとおり、本件建物の一〇二号室の賃借人Fは平成九年四月五日に、一〇五号室の賃借人Hは同年五月三一日に、一〇六号室の賃借人Iは同年四月に、二〇一号室の賃借人Jは同年五月三一日にそれぞれ各室から退去しているところ、甲二〇の1、3によれば、これらの賃借人は、退去に際し、被控訴人との間で、同年四月一日以降の賃料を被控訴人に差し入れていた敷金の返還請求債権と対当額で相殺する合意をしたことが認められる。

してみると、本件債権差押命令の送達後にされた右相殺の合意は、民法五一一条の規定の趣旨に照らし、本件根抵当権者である控訴人に対抗することはできず、控訴人は、これらの賃借人に対し、依然として右相殺に係る賃料債権の支払を求め得るものというべきであるから、これらの賃借人が無資力又は所在不明であるなど右賃料債権を回収し得ない特段の事情がある場合を除き、控訴人に損失を及ぼしたと解することはできないといわなければならない。

そうとすれば、右特段の事情の主張立証のない本件においては、被控訴人の右相殺の合意による賃料の実質的取得をもって不当利得とすることはできない。

なお、二〇三号室の賃借人Lについては、被控訴人が同人から平成九年四月一日以降の賃料を弁済、相殺の合意その他の方法で取得したことを認めるに足りる証拠はない。

3  この外、控訴人は、一〇一号室及び二〇一号室について、それぞれ賃借人であるE及びJが退去した後、被控訴人の代表者個人が使用しているとして、被控訴人に対し不法行為に基づく賃料相当の損害金又は不当利得返還金を請求するが、前示の事実によれば、被控訴人は、本件建物の所有者であるCから賃貸権限の付与を受け、その権限に基づき右各室を被控訴人の従業員に対し社宅などとして無償で使用させているものと認められ、外に右使用が控訴人を害する目的でされたことを認めるに足りる証拠はないから、右使用は、控訴人に対する関係で不法行為となるものではないというべきである。

また、控訴人の物上代位権に基づく賃料債権の差押えの効力は、右各賃借人の退去、すなわち賃貸借契約の合意解除後の賃料相当損害金債権には及ばないことが明らかであり、控訴人において右賃料相当損害金を取り立てる権利はないから、被控訴人の右各室の使用によって控訴人に損失を及ぼすものではなく、控訴人に対する関係で不当利得となるものでもない。

第四結論

以上の次第で、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 橋本和夫 大渕哲也)

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